第四十七章 テンシを探して

イクサに何とかテンシの所在を探して欲しいと頼みました。
イクサはテンシの居場所を常に確認していたらしいのですが、男同士の約束があるからと言ってなかなか教えてくれません。
そこでわたしの神情をとうとうと説明すると、やはり兄弟です、わたしの神情はよく分かると言ってくれて、またかわいい甥のテンシが無駄骨を折ってはかわいそうだと言って居場所を教えるだけでなく、自分が仲をとりもとうと言ってくれました。
ここが、性格はイクサとテンシがいくら似ているといっても惑星の「想い」と衛星の「想い」の違いです。イクサはバランス感覚があり、何事にも激情する性格ですが、セルフコントロールでき、じっくり構えるべきところはそうすることが出来るのです。
イクサはわたしが子供のテンシと地球の人間のことでいろいろ前からやっていたことは知っていて、自分ならこうするのにという意見があったようですが、地球家族の問題に火星の自分が首を突っ込んでかえってややこしくなってはいけないと静観していたそうです。
イクサの意見では、どちらも極端であり、テンシは早急に、わたしはじっくりと、でしかもタイミングがいつも逆になっている。早急に手を打つべきときにのんびり構えているし、じっくりとするべきときにあせった行動に出る。いわゆる悪循環のコンビになっていると指摘されました。
だから、自分が間に入って仲をとりもとうと提案してくれました。わたしは喜んで同意しました。
そしていよいよテンシとの約130年ぶりの対面の日がやってきました。
テンシは何と日本にいたのです。日本の四国とかいう島で、昔は死国と言われていたところだそうで、その死国の名前が気に入ったらしく、そこにある剣山という山の頂上から、いつもわたしを監視していたようです。
わたしの日本での住んでいた場所は、ちょうど日本列島の真ん中にあたる場所で、伊勢という名の地でそこから海に向かう途中にある伊雑宮神社という、日本独特の祖先を祀る家で祖先のことをみんな神さんと呼んで神社と言っています。
小さな神社ですが、わたしがここを選んだのは、近くに日本の神社の中心にあたる伊勢神宮というのがあるのですが、あまりにも大勢の人間がいつも来ていて、控え目の性格のわたしにはちょっと騒々しい、いっぽう伊雑宮はほとんど参る人間がいなく、海が見えるのが気に入ったのです。
やはり地球の最初は海が多かったこともあって海がなつかしいのです。
テンシが潜んでいる剣山の頂上に人間の足で行くには大変難儀な場所でしたが、ここはあえて「想い」だけで飛んで行くこともできるのですが、地球の人間の問題で話合うので、テンシもイクサも人間の形で会おうということになったのです。そうしないと人間の肉体に閉じ込められた「想い」の心境が分からないからです。
剣山の麓から歩いていくことにしました。タクシーもありましたが人間の運転手がおかしな人間だということに気づいて、剣山に変な人間が住んでいるという噂が出てはテンシが困るだろうと思ってわたしがイクサに提案したのですが、イクサは笑いながら、あいかわらず優しいなと言っていました。
さすが歩いていくと半日以上かかりました。しかも頂上に近づくにつれてますます険しくなっていくのです。
肉体を抱えている人間は、「想い」だけの我々と違って生きていくのは大変だな、とお互いに経験したことのないことを理解することはいかに難しいかを感じるとともに、人間の大変さも少しは分かったのです。
頂上にもう一歩のところでテンシは我々のことに気づいたようです。
わたしもテンシが気づいたことを察知しましたが、以前会っていたときのような強烈なエネルギーの波を感じないのです。
そうすると、テンシの方から降りてきて我々を嬉しそうに迎えてくれたのです。
ひさしぶりにテンシと会って、あきらかにテンシの「想い」が変化しているのに気づきました。
わたしはただただ子供に会った喜びで胸がいっぱいの気持ちでした。
わたしは、イクサとテンシと一晩中話しをしました。ほとんど人間の話ではなくお互い父のヒカリの下での楽しかったことや、月という肉体とテンシという「想い」がどのようにして生まれたのかをテンシに話したりしたのです。
テンシはいつも夜になると自分の肉体の月が空に現れると寂しさで泣いていたことを告白したのです。
ちょっと会わない間にテンシも成長したな、とつくづく思い、やはり会いにきてよかったと思いました。