第三十六章 テンシ降臨

恐竜が最後には共食いで絶滅したことは前にお話ししました。
それと同じことを人間がやろうとしているのです。ヨーロッパの人間がアフリカを制覇したあと、ユーラシア大陸を東へと進出しだしたのです。西へは黒人奴隷を労働力に使ってのアメリカ新大陸とその周辺の島々への支配権の確立。そして東へは既成の王国を倒して、アヘンを使って大衆を廃人にする戦略の展開をしていったのです。
ただ、当初は彼らの目標はペルシャの煙草やインドのコショウだったのです。その向こうの大国への進出までは考えていなかったのだと思います。かつてのモンゴル帝国やその大国の大王朝の底力を知っていたから、もともと人種的に近いインドまでが狙いだったのでしょう。
大西洋の西の向こうに行けば、地球が丸いことは分かっていたので西まわりでインドに辿り着くつもりで航海したら新大陸を発見してしまったのです。だからその新大陸の周辺の島々を西インド諸島と名づけたのです、また新大陸の現住民をインディアンと呼んだのも目的地がインドであったからです。
どうしてそこまで彼らがインドにこだわったのか、それには理由があったのです。
さきほども言ったようにコショウの産地であって、ヨーロッパの人間にとっては珍しい食品だったことも大きな理由のひとつですが、根底にはやはり宗教が関わっていたのです。
インドという国には昔から聖人が輩出しているし、宗教発祥の地でもあったからです。ヨーロッパ諸国の国教となっている宗教の開祖もインドの宗教を学びに来たらしく、この国には宗教が生まれる土壌があるらしい。
当然、神であるわたしも興味が湧くわけです。そしてその理由を調べてみると、どうやら昔からあるカーストという階級制度に原因があるらしいということが分かりました。
生まれたときから、四つの階級のどれかに当てはめられて一生いくら努力しても決められた階級から変わることは出来ない制度らしい。
人間のみならず、宇宙のすべてはひとたび生を受けたものは必ず死ぬという法則があります。人間も過去の経験から、これは絶対真理だと思っている。人間にとって断定できるのは生あるものは死が必ずあるというだけだと思っていたら、生まれたときから死ぬまで絶対に変わらないものが他にもある、しかもそれが死のようにすべての人間に平等に与えられているなら納得も出来るが、最初から差別されて一生を過ごさなければならない宿命を背負わされたら、どういう心境になりますか。生まれた時の運が悪かったのだと思うでしょう、そして次のチャンスがあるのだと思わざるを得なくなるでしょう。それでないとなんの為に生まれてきて生きているのか、ばかばかしくなるでしょう。人間は欲望があるから、欲望が満たされないなら希望を持つしかない、そして我慢して生きていく。生まれ替わって新しいチャンスに期待するという希望しかない。だけど生まれ替われるかどうか保証はない。それを保証してくれるのが宗教なのです。だからインドで新しい宗教がどんどん生まれるし、聖者と称する人間がたくさん輩出する、たしかに中にはたいした人間もたまには出る。しかし生まれ替われる保証なんて如何なる宗教といえども同じ生きている人間なんだから出来るはずがないのですが、人間の大半が生きるのに苦労していると、この考え方に魅かれる。
そのことがユーラシア大陸の西側でも昔から伝わっていたのです。
インドを征することは、経済面もさることながら精神面の効果が大きい。
この時代に、ほとんどのヨーロッパの国がインドに侵略したのはこういった理由からです。ペルシャもインドと大なり小なり同じ理由によるものです。
ところが、その東にある大国となると、ごろっと事情が変わるので、今まで侵略はせずに共存して交易をやってきた。ところが今度は残忍なイギリスがこの国に牙をむいた。
どうしてか。東の端にあるこの国の向こうに新大陸に繋がる太平洋という大洋があるからで地球をぐるっと一周出来る、つまり地球全域を支配できるからです。
この支配欲の強い国はどこまでも貪欲で、とことん欲望の極みまで追求する性癖がある人間たちです。
しかし、新大陸発見は当初発見したスペインが衰退し、オランダも衰退して行く中でイギリスの横暴な支配階級から逃げ出した同じ人間たちが新大陸に夢をかけて移動した。まさに新世界だったのでしょう。
そしてイギリスとの間で同じ種類の人間同士で争いをはじめた。まさに共食い、骨肉の争いになったのがこの時期だったのです。
わたしもその間、彼らのアジア地区での横暴が少し収まるかなと安心していたのです。
共食いするなら、させれば良いと思ったのですが、何とお互いにうまく妥協して逆に一致団結して東ユーラシアの覇権に照準を合わせたのです。
その東ユーラシアの中心に地球のへそにあたる日本があったのです。昔モンゴル帝国すら侵略に二度も失敗した相手日本をこの両国は徹底的に壊滅させることを目論み罠を張ったのです。必ずしっぺ返しがくることも分からずに。
だから人間として最高の知性を誇った学者も彼らにこの国に手出しをしてはいけないと警鐘した。
そして、いよいよテンシが乗り込んできたのです。