第二十六章 奴隷の城・エルミナ

悲痛な叫び声が聞こえてくる方角に進んで行くと、そこはアフリカ大陸のちょうど中西部にあたる海岸の傍にそびえる白っぽい城が見えてきたのです。
わたしは、どうしてこんな城の中から泣き声が聞こえてくるのか不思議に思いましたがその城に近づくにつれてますます大きな泣き声が聞こえてきました。
一体中で何ごとが起こっているのかと思って城のそばまで行くと、何ともいえない匂いと、人間の怨念の想いが伝わってきたのです。
これは人間の姿ではとうてい入ることは出来ないと思い、肉体は城の外の草むらに寝かしておいて、本来のわたしである「想い」に戻って城の中に入って行きました。
そうすると、そこにはたくさんのヨーロッパの人間が忙しそうに動きまわり、何か荷物を運ぶ作業をしていました。
考えてみれば、アフリカのこんなところにヨーロッパにあるような城があるのも不思議だなと思って、わたしは彼らの様子を眺めていました。
ちょうど城の正面入り口に入ると大きな広場があって、たくさんの人間がいたので、その中の一人になりすましても変な侵入者とは思われないだろうと、わたしはまた一人の人間になりすまして、しかもかなり偉そうなヨーロッパの人間の姿に変わりました。
広場の片隅で見張りの番をしている黒い肌の年老いた人間が、立っていましたので、彼に命令口調で、城の中を案内するよう言いました。
彼は言われるままに何の疑問も持たずにわたしの指示に従い、いかなる質問にも答えました。この人間はここでもう50年以上住んでいるらしく、いろいろなヨーロッパの言葉がしゃべれるらしい。そしてこの城はエルミナという名前のもう100年以上も前にヨーロッパの人間によって築かれたものだそうで、自分と同じ黒い肌のアフリカに住んでいる人間をあっちこっちから集めてきては無数にある小さな部屋に数ヶ月閉じ込めて精神も肉体もぼろぼろにして抵抗する力を削ぐ。その無数の小部屋のある廊下を進んで行くと、だんだん狭くなっていき、人間一人が通るのにせいいっぱいの廊下になった先に、出口になっているところがあった。ここから黒い肌のアフリカの人間を船に積み込むらしい。
この老人の話しでは、昔は自分もある部族の酋長をしていたらしく、ヨーロッパの人間が船でやってきて、珍しい今まで見たこともない模様の入ったガラスの玉を見せられて、この玉と交換に自分の部族の人間や、別の部族の人間を売っていたらしいのです。
ところが今ではいろいろな言葉をしゃべるヨーロッパの人間がたくさんやってきて新しい武器で自分たちの仲間を殺して脅かしては、大量の女、子供まで駆り集め、収容するためにこの城をつくったそうです。そして中には若い女や子供を引っ張り出しては彼らの世話をさせ、一日中働かせ夜は自分たちの肉欲の吐け口にしていた。その老人の言うには、何とまだ10才にもならない女の子供のみならず男の子供までその吐け口の相手にして、子供たちが苦痛で泣き叫ぶ一方で、彼らが大笑いする声とが交錯して、まるでこの世とは思えない想いを何十年も聞いているというのです。
最初はガラス玉に魅せられて、この玉の数珠を首に掛けていると神さまが守ってくださると言われて、自分たちの仲間を売っていたが、この悲痛な泣き声を聞いてから、もう仲間との交換はしないと言ったら、力ずくで人間狩りをやりだし、自分を脅かして今の仕事をさせられているのだそうです。もう完全に心も体も飼い馴らされた動物になってしまって、彼らのあの白い仮面のような顔で睨まれるだけで体が震えるという。
そして最初は彼らのヨーロッパの国に運ばれていったそうだが、あるイタリア人がスペインの女王の命令で航海した結果発見したこの海の遠い果てに新しい島や陸地を発見したらしく、そこに大量に運んでいるというのです。
100年以上も前からやっているから一体どれだけの黒い肌の仲間が運ばれていったか分からない。
わたしはこの事実を知ったとき、人間という動物だけが一体どうしてこんなことをするのだろうと悩みました。
やはりわたしが、良かれと思って地球上のいろいろな場所に人間のルーツである原人を配置したのが、結局こういった肌色の違う人種を生み、生活方法が進歩していくうちに、交流が出来ないはずと思っていた遠い地域まで移動出来る知恵の働く人間が現れた。そしてどんどん知恵の発達とともに、余分な欲望まで増大していったのが原因だと気づいたとき、地球を支配する神として、一体自分は何をしていたのかと自責の念で人間に対する怒りよりも自分に対する怒りの涙がとまりませんでした。
そのとき、父のヒカリは黙っていましたが、テンシとイクサがわたしに教えてくれました。
彼ら黒い肌の人間が特に多く運ばれたのは、約100年以上前に発見されたアメリカ大陸とその近辺のキューバやハイチという島で、そこの原住民が苛酷な強制労働の結果激減した後に入植され、砂糖きびや綿の畑仕事という重労働をやらされていて、奴隷という名前で呼ばれているらしい。
そのことが現代の最貧国ハイチを生み、米国に蹂躪された反動で共産革命をしたキューバという国の長い怨念の歴史であるということを皆さんに認識して欲しいと思います。米国での綿花畑で重労働させられてきた黒人の怨念も理解すべきです。
もっと昔から、人間は戦をやっては負けた国の人間を連れ去っては自分たちの世話や重労働をさせていたことはいくらでもあるが、根本のところでは同じ人間という気持ちはあった、ただ戦に負けた代償だと考えていた。しかしこのアフリカに住む黒い肌の人間は、はなから同じ人間だとは思っていなくて、馬や牛以下で都合のいいことに、姿だけは人間のかたちをしているので便利だと思っているという。
今までの地球のあっちこっちで起こった人間同士の殺し合いが、まだ他の動物の生きてゆくための自然循環に近い活動であるのに対して、まったくかけ離れた神に対峠する悪魔をつくりあげた人間の為せる大罪であり、それを許したのはわたしだとテンシはわたしを罵りました。
たしかに、その後、現代に至るまでの白い仮面の悪魔の所業は許すまじき事だとわたしも思いました。
テンシがそこでわたしに提案をしてくれました。ここはじっくりとこの怪物の行動を監視して、まだまだ極悪非道の数々をやるだろうが、時が熟するのを待って、彼らが信仰する宗教でいう最後の審判を下しましょう、そしてその時は自分も協力すると言ってくれました。
わたしもテンシの考えに同意して、彼らのこれからの行動を見つめて行くことにしたのです。