第二十二章 魔がさす時代

地球にやって来て、善なる独裁者しか人間社会の不条理、不公正を正すことは出来ないことを知ったわたしは、一所懸命そういった人間を探し、何とか見つけたら、あのサムライのように恐ろしい凡人たちから抹殺される始末です。
ちょうど同じ頃、ユーラシア大陸の西側を支配していたオスマントルコ帝国にも、立派な独裁者が現れました。
彼は、生まれもっての気品を具え、宗教の違いや、人種、民族の違いなど関係なく同じ人間として世界を治める政治を行いました。国境も無くし、エジプト人の奴隷も解放し、財産もそれまで王朝が没収したものを元の所有者に返し、人の交流を自由にし、宗教の自由も与え、大衆から荘厳なる立法者(カヌーン・マグニフィシャント)と尊敬されていましたが46才の若さで日本のサムライが暗殺される前に亡くなっていました。そしてこの頃から北国の、まさに化け物の権化のような人種がブイブイ言わせる時代に入って行ったのです。それから400年、いや現在に至るまで、どれだけの人種・民族が彼らの犠牲になったか測り知れないものがあります。
わたしは、ユーラシア大陸の東と西にほとんど考えの同じ支配者がこの時代に現れたことだけが一点の光りだと思っていましたが、小賢しい悪しき心の持った人間が数で圧倒して、愚かで弱い凡人をそそのかして、この光りをも消し去ったことは断じて許せない、必ず天罰を下すべしと深く心に決意したのです。
このふたりの死後、ユーラシア大陸に嵐が吹きはじめるのです。
特に北の果てにある日本と同じような島に住む人間の横暴は、まず古代文明の発祥の地に襲いかかりました。
エジプト・イラン・インドの古代遺跡を略奪しアジア・アフリカへの帝国植民地主義を展開していった。
しかし、人間にはたしかに97%の無数の自分を持つ化け物がいるけれど、3%の宇宙の「想い」を理解している人間もいる。
この配分は決して変らない真理であることをわたしは、その時は知りませんでした。
しかし、その後も現代に至るまで随所でそういった人間が輩出したことは紹介していきますが、そういった人間の末路は必ず、数多い、恐るべき凡人の集団に抹殺される運命のようであります。
地球を支配する神でありながら、こんなことも分からないのかと思われるでしょうが、わたしたち一家の宇宙だけでも150億光年の広がりを持った世界で、そこに数えきれない、無限としか言いようのないぐらいの数の星があるのです。その中のたったひとつの星を司るわたしの能力など塵よりも小さな存在なのです。
たしかに、地球上の生命体からすればわたしの存在は大きなものに見えるでしょうが、宇宙から見ればわたし自身が人間よりもっと小さい存在でしかないのです。
それを人間だけは、万能の神として勝手に決めつけ、自分たちの都合のいいように、わたしを利用している。
蟻は決して人間のことを神のようには思っていません。人間の指先一つで蟻の大事な一生を棒に振らされるぐらい大きな存在であっても、蟻は人間を神として崇めることはしませんし、隙あれば人間を噛みつくことすらする。
それなのに、人間は全宇宙から見れば蟻のような存在のわたしを全能の神と崇める。
そして自分たちの思い通りにならなかったりすると、それはもう、悪魔だ鬼だと罵るのです。本当に困った生き物です。
わたしを一体何だと思っているのだ、という気持ちにもなります。わたしだって所詮、地球だけの神であることを人間に分かってもらいたいのです。失敗もするし、間違った判断もするのです。
子供も小さい時は親のことを神のように思っていますが、そこそこ大きくなると親に全面依存しなくなります。親の失敗も何度も見ているからです、だからと言って親のことを信頼しなくなったりはしません。
それなのに、わたしに対してだけは万能を求める。そしてその期待に添えなかったら、十字架であろうが、仏壇であろうがポイと捨ててしまって、また他の神をあてにする。
こうなったら、やれ宗教だ、信仰だとあっちでも、こっちでもギャーギャーわめいても、わたしも付き合いきれません。
とにかく、みんなで集まってはギャーギャー騒々しく、回りの迷惑も考えずに踊ったり、歌ったりするのだけは、やめて欲しいのがわたしの本音です。
静かにひとりひとりがわたしに声をかけてくれたら、わたしはいかなる人間でも真面目に聞いてあげて、出来るだけのことは、してあげたいと思っているのです。
しかし、そういったわたしと人間との相互理解の実現への道は、まだまだ長く険しいものであるようです。
まだこれから何百年もわたしと人間との間に、魔がさす事件が頻発することになるのです。
宇宙から眺めていると何百年なんて、ほんの一瞬ですが、地球に降り立つと気の遠くなるような長さを感じるわたしなのです。