第二章 宵の明星・明けの明星 クウとカミ

わたしとクウとは喧嘩をするとまったく口もきかないのですが、父のヒカリが西に沈むとき、その右の傍でわたしに向かって「バイバイ」と言っているように燦然と輝くのです。
わたしは、そのときのクウを宵の明星と名づけました。
また父のヒカリが東からその姿を現すとき、その左の傍で「ハーイ」と言っているようにまた燦然と輝くのです。
わたしは、そのときのクウを明けの明星と名づけました。
あるとき、クウに「どうして、いつも父が沈むとき、現れるとき、傍にいるんだ?」と尋ねました。
クウもわたしと同じ気持ちだったのです。
「お父さんは、いつも兄のミズと一緒で自分やカミと遊んでくれないので、せめてお父さんが眠る前と、起きたときぐらいは傍にいたいと言って、許してもらったんだ」とクウはわたしに言いました。
わたしは「いいなあー」と言うとクウは「何を言ってるんだ、カミだってそうしているじゃないか、お父さんの傍で」と言われて「ああ、そうなんだ」と気がついたのです。
それほどにわたしやクウにとって父は絶対的な存在でした。
あるとき、クウがわたしに質問を投げてきました。
「自分はよく思うんだが、お父さんが西の空に沈むとき、いつも悲しげな表情をして沈んでいくとは思わないか。そしてその表情を見ているうちに自分も悲しい気持ちになり、今まで明るく輝いていた自分が突然、暗闇とともに消えていく。お父さんの傍で輝いているカミが暗闇とともに、忽然と消えていくのを見て、自分もそうだと思って恐くなったよ」
わたしも実は同じ気持ちを持っていたとクウに答えました。
「それじゃ、お父さんに聞いてみよう」ということになってお父さんの傍に行けるときを待っていました。
お父さんは昼間はミズを連れて仕事に忙しいらしく、宵方にならないと会うことが出来ません。
あるとき、お父さんの傍に行ったときクウと話したことを言ってみました。
すると、お父さんはニコッと微笑って、だけど神妙な表情で教えてくれました。
「カミよ、わたしたち一家はあと50億年後にこの宇宙から消えていく運命にある。それは、お父さんがブラックホールという星になるときだ、ブラックホールになるということは死ぬということだ。お父さんが死んでブラックホールになると、お前たち息子たちも一緒にブラックホールに吸い込まれて死んでいく」
わたしは、驚いて震えていると
「だけど、みんなで新しい宇宙に旅立つことでもあるんだから、そんなに恐がることはない。ブラックホールになったわたしたち一家は長いトンネルを通って新しい宇宙に飛び出るんだ。そこでお父さんはホワイトホールになって生まれ替わるんだ」
わたしは、不安に思って聞いてみた。
「じゃあ、ぼくたち子供はどうなるの?」
「いいかい、よく聞くんだよ。新しい宇宙に行ってホワイトホールになると、お父さんは、お母さんになる。そしてお母さんになったホワイトホールは娘たちを産む。お前たちも娘になって生まれかわるんだ」
父の話しはよく理解出来なかった。
「これが、わたしのおじいさんであるイシキが創った世界なんだ。ブラックホールとホワイトホールの間を結ぶパイプがあって祖父のイシキはいつも往復していて向こうにはおばあさんやお母さんが住んでいる、娘たちも住んでいる。わたしの姉や妹たちだ」
「じゃあ、僕たちのお姉さんや妹もいるの?」と聞くと「いや、それはいない。お父さんはまだ向こうの世界に行ったことがないから。向こうの世界に行くにはブラックホールにならないと行けない」
わたしは、ますます解らなくなってしまった。
父はそのあと、まだ50億年後のことだから、わたしの仕事を地球上でしっかりやるようにと言いました。
だけど、まだわたしははっきりと自分の仕事のことを分かっていませんでした。
そのとき父は、わたしの仕事は大事な仕事であること、だけど困難で大変な苦労をするだろうと言って、励ましてくれていました。
「そんなに、地球を操縦する仕事は大変なことなんだろうか」とわたしは思ったのです。