第三十三章  秘密儀式カシュルート

トミーの後をついて行ったボブは、シナゴーグと呼ばれるユダヤ教会に入っていった。
教会の奥の祭壇で、祭司と思われる長い髭をはやしたラビというユダヤ教の僧侶が、聞いたこともない言葉で、分厚い本を大きな声で読んでいた。
「みなさん、本日は年に一回の特別の儀式を行う日です。誰にも知られてはならない秘儀を行う日であります。ここに集いし人たちはユダヤ教徒の中でも特別な階級にいらっしゃる方々です。・・・・」
ラビが英語で喋り出し、柱の後ろに隠れながら聞いていたボブにも、何事が起こるのかが少し分かりかけてかけて来た。
『秘儀とは何だろう?』
ボブが隠れていた柱の正反対側の方から、数人の男が、黒い大きな袋を担いで祭壇の方に歩いていった。
ラビの前に行くと、袋の中のものを引っ張りだした。
脚を縛られた羊だった。
ラビが、祭壇の下から、長いナイフと言うより剣と言った方がいいような鋭い刃物を出してきた。
さすがに、教会に集まった人たちが、ざわめく音がした。
運んできた数人の男たちが押さえる羊の性器を、ラビは先ず切り落とした。
「フグォー!」
羊の悲鳴が教会の中で轟いた。
ラビの手は血で真っ赤になっていたが、顔色一つ変えずに、今度は羊の腹を真っ直ぐに切り裂いた。
縛られた足を動かしながら羊は、「フグォー!」と又悲鳴をあげたが、その悲鳴には力がなかった。
祭壇の上から血が流れ落ちている。
その流れ出る血を数人の男たちが、すくいあげるようにして壷のような容器に入れ、他の男たちが、羊の体を押し潰すようにして血を絞っている。
羊は息を引き取ったのか、もう悲鳴はあげなかった。
そして羊の死骸は元の袋に入れられ、絞り出した血の壷を、ラビは掲げて、訳の分からない言葉で叫んだ。
「カシュルート!」
そうすると、教会にいた全員が唱和するように、「カシュルート!」と叫んだ。
ラビは、その羊の血の入った壷に口をつけ、中の血を飲み始めた。
教会の中では、さすがに戦慄のざわめきがあちこちでおこっていた。
ボブも度肝を抜かれ、呆然とその光景を見ていた。
その後、全員が、ラビから壷の血を分け与えてもらう為に、祭壇の方に寄って行った。
その中にトミーの姿もあったのを確かめたボブはそっと、教会を出た。
外気で深呼吸をしながら、悪夢のような光景が、いまだに信じられないボブは、『タクシーの運転手が言っていたのは、このことだなあ!』と呟いた。
『カシュルートか!』