第三十章  アルカトラスへ

ボブは、アルカトラス島にいるカポネに会うためにサンフランシスコに戻ることにした。
半分、催眠によって洗脳されているジョンにどこまで話していいか分からなかったボブは、危険を極力避けるために敢えてジョンに嘘をついた。
「トミーはフリスコにいるんだろう?」
「そうだと思う」と答えたジョンに、トミーの居場所をほぼ推測出来ていたボブだったが、「トミーを探しにフリスコに、一旦帰ることにするよ」と言って、サリナスの町を離れた。
サンフランシスコ駅に着くと、その足でタクシーに乗って、「フィッシャマンズワーフまで行ってくれ」と運転手に言った。
サンフランシスコ駅からマーケットアヴェニューを抜けてグランドアヴェニューに入ると、一路ゴールデンゲート・ブリッジまで行く。
その途中でフィッシャマンズワーフに降りると、ワーフの西寄りにアルカトラス島行き船乗り場がある。
検問所があり、そこで面会者の名前を申請して、ボディーチェックされて船に乗る。
距離的には、それほど遠くはないが、海流が激しくアルカトラス島に真っ直ぐ向かえば海流に流されてしまう。
三十分ほどで島に着いた。
再度、ボディーチェックを受けて、島に上陸して刑務所の門に向かった。
方々で銃を構えた監視員が、こっちを見ている。
「誰に面会かね?」
受け付け係りの者が尋ねた。
「アルフォンソ・カポネです」
名前を聞いた途端に態度が変わって、丁寧な喋り方になった。
「どうぞ、こちらへ。カポネ様の面会は、特別室の方です」
腰が曲がりそうになるぐらい、その男は平身低頭にボブを案内した。
部屋に入ると、カポネが立って待っていてくれた。
「やあ、ボブ。久しぶりだなあ。何だ急に?お前の来る所じゃないと前に言っておいたのに、敢えて来たということは特別な理由があるんだな・・・」
「やあ、アル。元気かい?いいのかいここで話をしても?」
「大丈夫さ。ここの連中はみんな俺の味方さ」
相変わらず人たらしの名人だとボブは思って苦笑いした。
そして今までの出来事を詳細にカポネに話した。
「どうして俺に?」
「こういう事件が起きるのは、二つのケースしか有り得ないと思うんだ」
カポネはニタッと笑いながら、
「その内の一つのケースが、俺の世界の場合っていう訳だ」
さすが理解が速いとボブはカポネの頭のシャープさに舌を巻いた。
「俺が、こんな極道な人間だから言ってるんじゃねえぜ」
カポネは真剣にボブのことを心配していた。
「そんな子供騙しのような手を使う奴は許せねえ!俺たちのような極道は神なんて信じてはいねえから、そんな手は使わねえよ」
ボブの前では、意識的に素人の喋り方をしていたカポネだが、余りに興奮して、つい日頃の喋り癖が出てしまった。
「アル、その喋り方の方がアルらしくて良いよ」
笑って言うボブに、顔を赤らめてカポネは、「冗談は、よしてくれよ、ボブ」
と言って、目を瞑った。
何かを考えている様子で、ボブは邪魔をせずに黙っていた。
自分と同じことを考えていると、ボブは思っていたが敢えて自分からは言わずに、カポネの意見を聞くことにした。
「シカゴでスーパーを開店した時から、俺はボブのことを知ったが、その前に、カリフォルニアの穀物取引で、あの禿げ鷹野郎の連中と揉めたことがあると言ってただろう?」
『アルはやはり同じことを考えている・・・』
ボブは思った。
「あの禿げ鷹野郎の連中は、今までボブのような人間を知らなかった。みんなちょろいもんだと思っていたんだ」
カポネの言っている意味が分からなくてボブは、「アル、今何て言ったんだ?」
「ちょろいもんだ(Piece of cake)」
ボブにとって初めて聞いた言葉だ。
「また、悪い言葉が出てしまったなあ。ごめんよ。簡単なことだ!って意味だよ」
いくらこんな豪華な部屋に居ても、長い間刑務所にいるとどうしても標準語を忘れてしまうのだ。
『やはり、時々来ないといけないなあ!』
ボブは内心、カポネに『すまない』と思った。
「いいか、ボブ。お前は、何もしないで相手の出方を待っていろよ。フランクに言って、シカゴからアクションを起こさせてやるから」
「僕は何もアルに頼み事をしたくて来たんじゃない。意見を聞きたかっただけだよ」
本当にボブはカポネの手を煩わせるような気持ちはなかった。
「何言ってんだよう!ボブ!俺が知ったからにゃあ、放っておくわけにいかねえよ」
もう完全に頭に来ている様子が言葉から分かる。
こうなったら、ボブといえどもカポネを止めることは出来ない。
「これは、いよいよ戦争だなあ」
ボブは身が引き締まった。