第二十五章  黒幕は誰だ!

ボブは、夢とは絶対に思わず、気をしっかり持って、姿の見えない悪魔と対決した。
『これは夢ではない。現実だ。ルシファーがこの世に下りて来た証拠だ。ルシファーよ、僕は恐くなんかない。さあその姿を現せ!』
ボブは叫んだ。
それでも反応は無かった。
「トミー、分かっているんだ。カインをそそのかしていたのは君だろう。僕には全てお見通しだ。姿を見せるんだ!」
しばらく沈黙が続いた。
ボブは毅然とした態度で部屋のベッドの上に立った。
ドアーのノブが回った。
「カチッ」という音がして、ドアーのきしむ音がした。
「分かっていたのか、ボブ」
ドアーが開いて、そこにはトミーとカインが立っていた。
「いつごろから気づいていたんだい?」
トミーが訊くと、
「確信を持てたのは、今だよ。おかしいとは思っていたがね」
ボブは冷静に喋りはじめた。
こうなるとボブの精神力は、人間離れしてくる。
「ジョンもアベルも、殺したのはトミー、君かい?」
「そうだ。わたしがカインに指示したのだ」
ボブは真っ赤な顔をして怒りをトミーにぶつけた。
「どうして、こんな子供にさせるんだ!やるなら自分の手でやればいいものを。
僕はそういう君を絶対に許せない!」
しばらく沈黙が続いてから、声の質が変わったトミーが喋りだした。
「わたしは、トミーではない。ルシファーだ。悪魔の大王ルシファーだ。トミーを責めても意味がない。彼はただわたしの命令に従っているだけだ」
ボブは小さい時、父のジェイコブから聖書の物語を聞かされていて、ルシファーのことも知っていた。
「ルシファーはもともと天使だったはずだ。それが欲望に負けて悪魔の大王になったと言われている。なぜ天使が悪魔になり下がったのだ?」
また沈黙が続いた。
「悪魔と天使は表裏一体の関係である。天使がいるなら必ず悪魔も要るのだ。誰も喜んで悪魔になる天使はいない。だからわたしが悪魔になったのだ」
ボブは急に大声で笑いだした。
「何がおかしい?」
「だってそうじゃないか。悪魔も喜んで悪魔になっているのではないなんて、おかしい話だ。それなら天使も喜んで天使になっていないと言うのかねえ」
ボブは無理やり首をかしげて笑ってみせた。
その時、ドアーが「ビシャッ」と閉まる音がしたので、ボブは向き直った。
ドアーの前に立っている姿を見たボブは絶糾した。
「お父さん!お父さんじゃないか!」
ボブは信じられない顔をして叫んだ。
ジェイコブの姿が現れたのだ。
ボブは必死に冷静さを維持しようと、さきほどまで部屋にいたトミーとカインの姿を追いかけた。
だが二人の姿はもう、そこにはなかった。
『本当に、亡霊が現れたのか、自分が妄想にとりつかれているのか、それとも何か仕掛けがあるのか。三つのうちの一つだ』
冷静に考えるボブに、ジェイコブの亡霊が口を開いた。
「ボブ、ボブ。わたしは聖書のカインと同じことをした。それをエバに知られて彼女は去って行った。わたしが死んだ後、カインが再び戻って来た。しかもジョンの子として生まれてきた。ベネディクト家は聖書のカインとアベルの亡霊にとりつかれているのだ。ボブ、亡霊にとりつかれていないのはお前だけだ。ああ苦しい!真実を喋ると息が苦しくなる!」
ジェイコブの亡霊はボブの目の前で悶え苦しんだ。
まだ信じられないボブは、辺りに何か仕掛けがあるはずだと部屋中を目で追ったが、そこには闇があるだけだった。
「お父さん。僕に何をしろとおっしゃっているのですか?教えてください」
ボブは観念して穏やかに話しかけた。
「お前は、お母さんのエバに性格が似て、捻れているとよくわしは言ったが、実はエバの心がまっすぐで、わしが捻れていたのだ。それはカインに憑かれているからだった。そしてジョンにわしの想いが伝染し、ジョンからまたカイン本人に。カインが他の人間に憑いているときはまだよかったが、今度は本人が現れた。このまま放っておけば大変なことが起こることになる。ボブよ。お前しか、この事態を食い止めることが出来る者はいない。それを伝えたかったのだ」
ボブは首をかしげてジェイコブの亡霊に言った。
「それじゃ、さっきトミーとカインが現れて言ったことは、お父さんとは関係ないと言うの?ルシファーという悪魔がついていると言ってたよ」
ボブは、こういう事態になっても冷静に考えることが出来る自分に驚きと怖さを感じた。
「お前が、あまりにも冷静でいるからルシファーも手を焼いているんだろう。お前さえ、落ちてくれたらルシファーは満足するはずだ」
ボブはだんだん分かってきた。
「落ちるってどう意味?」
わざと父親に甘える表情でボブは亡霊に訊いてみた。
「ルシファーの言う通りにするんだよ」
亡霊まで優しい喋り方に変わるので、ボブはおかしくなってつい笑ってしまった。
「何がおかしいのかね?ボブ」
まだ優しい喋り方をしている。
「もういい加減にしたらどうだ!ジョン」
遂にボブはジョンの名前を口に出した。
「トミーでも、カインでもない。ジョン、君が僕に復讐をしたくて仕組んだことぐらい分かっているよ。いまだにキムと僕のことを恨んでいるんだろう。カインとアベルだって自分の子だと信じていないんだ。だがはっきり言っておくが、キムと僕は一度も関係を持ったことはない。君が勝手に思い込んでいるだけだ」
ここまでボブに言われ、ジョンは遂に姿を現わした。
開いていたドアーの前に、亡霊のような姿のジョンが立っていた。