第十四章  グローバリゼーション

カリフォルニアは全米一の農業地帯だ。
その農家の作物を一手に引き受けているのが穀物メジャーだが、彼らはその作物をシカゴの穀物商品取引所経由で、全米の消費者に供給している。
カリフォルニアの一部の農家は、ボブに直接販売するようになってから、彼らメジャーから締め出しを食っていた。
穀物メジャー経由で作物を売りさばくことは最早不可能になっていたので、頼みの綱はボブだけだった。
シカゴでは、カポネと組んだボブがスーマート経由で小麦、コーン、大豆の販売シェアーを伸ばして、メジャーに苦渋をなめさせていた。
全米のみならず、ヨーロッパ向けの穀物輸出まで支配していた穀物メジャーにとっては許されない事態になっていた。
第一次世界大戦が終わった翌年の1919年の11月に、レーニンのボルシェビキ武装蜂起でロシア革命がなし遂げられソヴィエト連邦が誕生した。
しかし革命後のソ連で、極度の飢饉が起こった。
その時、スラブ民族の帝政ロシアから迫害を受けてアメリカへ亡命していたカザール人ユダヤ教徒のスタッド・カミューが新しい国・ソ連に100万トンの大麦・小麦を無償供与した。
レーニン政権から圧倒的支持を受けたカミューを中心に、穀物メジャーは、ソ連への販売ルートを確立していった。
メジャーと呼ばれるように彼らの対象はアメリカだけではなく、全世界がその支配範囲である。
しかもメジャーの本拠地はアメリカであるが、そのパートナーがソ連であるところが、いかにも陰謀臭い。
歴史というものは、間違いなく裏と表があり、真相は裏の方であるのが常套のようである。
ところが一般大衆は、表の歴史を盲信する。そこが歴史の裏舞台を演出する連中の思う壷なのだ。
世界で初めて石油が発掘されたのはアメリカのフィラデルフフィアであったが、その頃はせいぜい家庭用燃料が主たる用途であった。
ところが、ヘンリー・フォードがT型フォードを開発して一気にモータライゼイションがアメリカで興ると、石油の需要は爆発的に増大した。
その供給のため、カスピ海沿岸にあるウクライナの首都バクーの大油田を開発したのが、アメリカのナショナルオイルとイギリスのシェル及びブリティッシュ・ペトロリアム、オランダのロイヤルダッチなどの、いわゆる石油メジャーだ。
彼らはバクー大油田の利権を独占したのだ。
そのバクーは今やソヴィエト連邦のウクライナ州の州都である。
メジャーとは国境を越えた国際資本であり、民族色は一切ない、薄気味悪い存在である。
そのメジャーの大本山・穀物メジャーがサンフランシスコでボブに罠を仕掛けてきたのだ。
それは、メジャーという国際資本とアル・ボブのアメリカイズムとの戦いへと展開されていき、アメリカがその保護主義を守るか、それともメジャー国際資本の軍門に下るかの大きな分岐点になるアメリカ史上、重要な経済戦争となっていった。
ボブは今や、その鍵を握る重要人物になっていたのだ。 
フランス革命が起きたのは、ヨーロッパ全土に散らばって生活していたユダヤ人が11世紀まではどの国からも迫害を受けずに穏やかに生活していたのに、フランス人のウパニス教皇が1096年に聖地イェルサレムを奪回せよとキリスト教徒に下知を下した十字軍の遠征が遠因だった。
フランスではマルセイユにユダヤ人が最も多く住んでいて、商業で繁栄していたが、1306年、フィリップ四世がユダヤ人の財産を没収し国外追放した。そして1394年にシャルル六世がこれを完璧に遂行したため、それからフランス革命まで、ユダヤ人はフランスではほとんど住めなくなっていた。
フランスはすべてのユダヤ人を徹底的に片付けた最初の国だったのだ。
一方ロシア革命はフランス革命から百年後に、スイスのバーゼルに亡命していたロシア系ユダヤ人レーニンがボルシェビキ集団に資金援助をして武装蜂起させた結果達成されたのだが、原因はユダヤ人に対するポグロム(ユダヤ人に対する虐殺行為)が原因だった。
表面的には、横暴極まる王制の破壊が革命の大儀であったが、実態は王制によるユダヤ人迫害に対抗するものだった。
それだけユダヤ人は経済力にものを言わせて世界を動かす力を持っていたと言える。
そして今やアメリカが彼らの軍門に下るかどうかの分岐点に立たされている。彼らの目指すところは国際化すなわちグローバリゼーションである。
国境のない世界づくりがその目標で、フランス革命、ロシア革命、第一次世界大戦、世界大恐慌はすべてグローバリゼーションによる人為的出来事であったのだ。
十九世紀から二十世紀に差しかかる時代に大英帝国が衰退していき、アメリカが台頭してきたのもグローバリゼーションの連中が仕掛けた罠だった。アメリカを世界一の国家に育てたのも、イギリスで産業革命を起こし、ドイツという国を世界初の技術立国にしたのもすべてグローバリゼーションが仕組んだことである。
史実というものには必ず裏表がある。表の歴史は大衆を惑わすためのものであり、裏の歴史は本当の支配者が永遠の支配を確立するために隠してきた真相である。
彼らは大衆の中に無関心という疫病を蔓延させ、歴史の裏で大衆を自由自在に操ってきた。
大衆が公事に関心を示すと迫害が彼らに襲ってくる。麻薬中毒に侵されたものにとって一番憎いのは麻薬の売人だ。麻薬から抜け出そうとすると、売人と手を切らなければならない。そうでないと彼らに自由に操られる。それが迫害となっていく。ある意味で大衆の自己防衛が迫害という形になる哀れな人間社会である。
ボブが対決しようとしている穀物メジャーはグローバリゼーションの代表的存在である。
カポネが結局、脱税という形で抹殺されたのも彼らの罠だった。
歴史の事実を見る目を養う基本的要件は、表の歴史で英雄視されたり、賞賛されている人物ほど実はどろどろとした、汚れた部分を多く持っており、悪人視された人物ほど実は大衆の為に命を投げ打った者たちが多い。
大衆というものは愚かなものだ。自己保身をしているつもりが、実は裏で彼らを奴隷視している連中に思うままに操られていることが分からないのだ。
人類の悲劇の最大の原因は、この大衆の無関心からくる愚かさである。
その大衆に主権を与える民主主義は、まさに彼らの思う壷なのだ。
ボブはカポネの件でそれが分かった。
『この国は、何か目に見えない巨大なパワーに呑み込まれようとしている』
そう思うと武者震いするのだった。  
そして遂にボブが心配していた、『この国は、何か目に見えない巨大なパワーに呑み込まれようとしている』ことが現実になったのだ。
サンフランシスコ市が所有している、海に面した丘陵地を購入しようと申し入れしたトミーが慌てて帰って来た。
「ボブ、あそこの土地は、既に売却したと市当局が言うんだ。それで事実かどうかを調べたら、売却したのは事実だが、相手はどこだと思う?」
「多分、コーチャンかコンチネンタルグレインだろう?」
トミーは唖然として言った。
「なんだ!知っていたのかい」
「知らないけど、あんな土地を今のような恐慌の時代に買う物好きは、彼らか僕しかいないよ」
ボブは、何か目に見えない巨大なパワーの実体が分かりかけてきたような気がした。
「どうやら、この国は一部の組織に乗っ取られようとしているよ」
ボブの話しを聞いたトミーは驚いた様子だった。
「その組織というのは、穀物メジャーの連中のことかい?」
ボブは首を横に振った。
「いや、彼らは前線だと思う。陰で彼らに命令を出している怪物がいるはずだ。この大恐慌だって、その怪物の仕業だと思う」
大恐慌は、ニューヨークの株式市場のバブルが弾けて起ったものだと、世界は思っていた。
しかし、ボブが「何かおかしい」と思ったのは、株が上下するのは当然のことで、小さく上がれば小さく下る、大きく上がれば大きく下るが、流れている資金の総量は不変である筈だ。大きく上がって、大きく下がれば、大量に損をしたものと、大量に得したものがいるはずだ。
ところが、その不変の資金が市場に流れていないのだ。どこかで滞っているのだ。
大恐慌の実体は、市場の資金が流れずに、どこかに溜まっていることだ。
人間の体で言えば、大恐慌とは大動脈瘤というバブルが破裂して血液が正常に体全体に循環していないことだ。
動脈瘤が破裂して、血液が流れ出てはいけないところへ大量に流れ出ているのだ。
動脈瘤を意図的に作って、意図的に破裂させた者がいるはずだ。
その者のところに資金は大量に流れ出て行っているはずである。
「こんな大胆なことは、政府を操るぐらいのパワーがないと出来ないよ」
「それじゃあ、サンフランシスコ市も彼らに操られて、あそこの土地を売却したって言うのかい?」
ボブは頷いた。
「僕のやってきたことが、彼らには目障りで仕方ないんだろう。きっとアルも目障りだと思われたんだろう」
「カポネが刑務所に入れられたのも彼らの仕業だと言うのかい?」
トミーが目を思い切り開けて叫んだ。
FBIをも動かすことが出来るパワーが存在する。
世界を支配する帝国は、必ず表の権力と裏の権力の二重構造になっているのが歴史の常識だ。
ローマ帝国しかり、大英帝国しかり、そしてアメリカ帝国も裏で支配する権力がついに動き出した。